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岩下です
最近、コロナ騒動でよく言葉を耳にするようになったECMO(エクモ)ですが
私、専門分野の一つとしています
ECMOとの出会いは2008年にさかのぼります。当時勤めていた大学の関連病院に重症呼吸不全の患者が発生し、到底移動もできない、という状態であり、我々がECMOの機械をもってその病院に行き、ECMOを導入して本院に連れて帰り、集中治療を行ったものです。当時、ECMOのことは医師でもほとんど知られておらず、そもそも、呼吸不全の患者に対しECMOは酸素化は改善するが生命予後は改善しないというのが当時の常識でした。私もECMOについて何も知らないような若手医師のころでした。私の上司がECMOを専門にしており、私は訳も分からないまま連れていかれ、言われた通りに患者を連れて帰る状態だったのを覚えています。
その患者はその後の集中治療により歩いて自宅に帰る状態になり、帰りにICUにもあいさつに来てくれました。このような瀕死の患者さんが歩いて帰れるようになる、これが救急医療の最高の醍醐味だと思っています。
その翌年に、ECMOが重症呼吸不全の患者の予後を改善するという論文がイギリスから発表され、さらにその翌年にH1N1インフルエンザが世界的な大流行を来し、その際に多くの重症呼吸不全患者が発生しました。このときにもECMOが活躍し、ECMOの有用性は救急・集中治療医の間では一躍有名になりました。
しかし、このころ日本ではまだECMOはあまり知られておらず、H1N1インフルエンザに対するECMO治療の日本の成績は極めて悪いものでした。これは、1施設当たりの患者数、使用する機材、教育体制などが影響したと考えられています。
これ以降、我々は日本での呼吸不全患者に対するECMO治療の予後を改善すべく、様々な取り組みを行ってきました。学会で勉強したり、世界トップレベルの施設に見学に行ったり、日本でも教育活動を行ったり。そのような取り組みにより、近年では日本でのH1N1インフルエンザ患者に対するECMO治療の成績は世界に匹敵するようになってきました。
そして迎えた今般のCOVID-19パンデミック。国内の複数の学会で電話相談窓口を作り、全国の施設からのECMO適応患者の相談にのり、患者の集約化や体制づくりにも協力してきました。これらの結果により、日本のCOVID-19に対するECMO患者の治療成績は世界のECMOに先進的な国にも引けを取らないものとなりました。患者数の減少した現在は、全国での教育活動に協力しています。
ECMOは重症呼吸不全患者治療のまさに最後の砦となり得ます。しかし、そのためには正しい知識と安全に管理するための知識、トレーニングなど不断の努力が必須になります。安易にどこの施設でも出来るものでもなく、するべきものでもありません。
島根大学病院でも、このような治療が正しく効果的に行われていくよう努力を続けたいと思っています。

下記にもまとめを載せています
https://www.jsicm.org/news/upload/COVID-19-ECMOnet.pdf